ひと口に翻訳と言っても、海外の著作物(フィクション、ノンフィクション、実用書など)を日本語で出版するための出版翻訳、あらゆる経済活動や政治の現場で発生してくる文書を翻訳する実務翻訳(産業翻訳、ビジネス翻訳などとも呼ばれる)、映像と外国語の音声で構成された情報から、日本の視聴者のための吹替のセリフや字幕を作る映像翻訳(メディア翻訳ともいう)などいろいろある。
いずれも原文の意味を的確に読み取る語学力は必須であるが、特に小説のようなフィクションの翻訳では、作品のテーマや文体の特徴、作品全体の雰囲気や印象などを正しく把握する感性、それを文章化するための語彙力や表現力などが重要になってくる。 同じ原文でも人によって訳文が異なるのは、このような要素の個人差が影響するからなのだと思う。
実は以前に英日の翻訳を勉強していて、専門書の部分訳やリーディング(原書を読んで、その内容を要約した”レジュメ(シノプシスともいう)”を作成する仕事)などをして報酬を得たこともあったが、翻訳を職業として続けられるほどの技量やセンスが自分にはないと思い至り、断念した。
この頃は『翻訳の世界』という月刊誌を購読していて、この雑誌に翻訳家でエッセイストの岸本佐知子(きしもと さちこ)さんの「本厄の世界」と題した短いエッセイが掲載されていた。(2年ほどの間だったと思う。)内容は翻訳技術に関してではなく、筆者の体験談や、様々な事柄についての考えや感想といったもので、これがかなり面白く、毎回楽しみに読ませていただいた。 この「本厄の世界」で書かれたエッセイが(全部かどうかはわからないが)収録された『気になる部分』 (白水社) というエッセイ集が出版されているので、機会があれば読んでみたいと思う。
『気になる部分』岸本佐知子、爆笑エッセイ http://blog.goo.ne.jp/full-chin/e/5c925d9a26b9287ed379a6d2fe237097
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