初花月に

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...... 2016年06月10日 の日記 ......
■ 普通の人々   [ NO. 2016061001-1 ]


 『普通の人々』(原題:Ordinary People)は1980年のアメリカ映画で、有名俳優ロバート・レッドフォードの初監督作品である。原作はジュディス・ゲストの同名小説で、日本語訳は『アメリカのありふれた朝』というタイトルで集英社文庫から出版されている。

概要:
 シカゴ郊外の閑静な住宅地に暮らすジャレット一家は、税務弁護士の父親カルヴィン、何事も完璧にこなす美しい母親ベス、高校生の息子二人(長男バックと次男コンラッド)の四人家族である。
(以下、日本語訳の文庫本の裏表紙にある説明)
 ”長男の溺死、それに続く次男の自殺未遂。二つの事件を契機に、昨日まで平穏だった家族が激しく揺れ動く。現代社会において親と子、夫と妻の絆とは一体何なのか。失った愛情と信頼を回復するために親と子がむかえる試練の物語。ありふれた人々のありふれた日々にひそむ虚妄性をとらえ、全米をわきたたせたベストセラー。”


 コンラッドとバックはヨットで湖に出て、嵐で転覆事故が起こり、バックは水死、コンラッドだけが救助される。その後コンラッドは一人だけ生き残った自分を責めるかのように、手首を切って自殺を図る。
 療養生活を終えて帰ってきたコンラッドは、紹介された精神分析医バーガーのもとへ通いながら、何とか以前の日常を取り戻そうと苦闘する。
 自殺を罪とする社会にあって、学校の友人たちの中には彼を奇異や蔑みの目で見る者もいる。教師たちは腫れ物に触るように彼を扱う。
 コンラッドよりもあらゆる点で優れていた長男バックを溺愛していたベスは、コンラッドと心を通わせることができず、よそよそしい態度をとり、会話もかみ合わない。
 カルヴィンはそんな二人の間に立ってどうにかしようと努力するが、うまくいかず途方に暮れる。

 不安と疑念、罪悪感、葛藤の中で、最も親しい間柄であるはずの家族が、実はお互いを理解し合えていなかったこと、またコンラッドが自殺を図った本当の理由を本人が分っていなかったように、家族それぞれが自分自身の内面も見きわめてはいなかったという事実が露呈してくる。

 ここでコンラッドを診療しているバーガー医師が大きな助けとなる。バーガーは真摯にコンラッドの話を聴き、優れた心理分析によって彼が立ち直れるよう適切な助言をする。カルヴィンもまた息子の問題にかこつけてバーガーを訪ね、自分自身の話をすることになる。

 原作者のジュディス・ゲストは、「ordinary(普通の)という言葉をアイロニカルな意味で使ってはいない」と述べている。
 子供を大学に通わせるための費用を出せる(アメリカでは珍しいことらしい)裕福な白人家庭が普通という気はしないので、登場人物の一人一人を人間として見た時、その性格や気質などに目立って特異なところのない、どこにでもいるような人々という意味で普通なのだと思う。

Ordinary People 1980
https://www.youtube.com/watch?v=KGVCU_5u-Qk

 この映画を観たのはかなり以前なので、細かいところはよく憶えていないが、やや気になる点があった。
 最後の場面で、カルヴィンはベスが長男バックと自分自身のみを愛していると考えるに至り、ベスに別れを切り出す。ベスは無言で荷物をまとめて家を出て行き、残された父と息子はお互いの信頼と愛情を確かめるかのように抱きしめあう。
 最初からベスだけが悪者か哀れな存在のように描かれていて、このような結末を導くためのストーリー構成が行われている。

 原作では、やはりベスは家を出て行くが、離婚したわけでも、家族への愛情を失ったわけでもない。ただ一人になって考える時間が必要だったのである。
 カルヴィンはコンラッドに「母さんは旅行に出かけて、帰りはいつになるかわからない」と説明する。
 コンラッドはその後、ベスの持ち物の中に試験の答案や自分がベスに贈ったバレンタインカードなどを見つけ、「自分にとって何の意味もないものなら、あんながらくたを大切にとっておくだろうか?」と思う。
 ベスは旅先から自分の母親に手紙を送り、その中には息子たちを想う言葉がつづられている。
 カルヴィンとコンラッドは、妻の、母の帰りを確信して待つ。改めてお互いを理解し、ありのままに受け入れようとしはじめたところから、家族は再生へ向かう。

 映画と小説は表現方法が全く違うので、簡単に比較することはできない。映画は映画として独自の物語を作り上げていて、それは成功しているのだろう。それでも個人的には、希望が持てるストーリーのほうが嬉しい気がするのだけれど。

 この映画はアカデミー賞で四部門(作品賞、監督賞、助演男優賞、脚色賞)を獲得した。
 レッドフォード監督の演出とアルヴィン・サージェントの脚本が高く評価されている。
 ちなみに助演男優賞はコンラッドを演じたティモシー・ハットンさんに贈られた。ベス役のメアリー・タイラー・ムーアさんは、本来はコメディ女優として有名な人で、この映画のようなシリアスな役柄は一つのチャレンジだったのだと思う。アカデミー賞では主演女優賞にノミネートされたが、受賞は逃している。

 映画と原作小説については、映画を先に観た人は映画のほうが良いと言い、小説を先に読んだ人は小説のほうが良いと感じるという、一種の刷り込み現象が起こるらしい。
 私はたまたま小説を先に読んでいて、そのあとで映画を観ることになったので、前記のような感想を持つことになった。もし映画だけを観たという人がいれば、どう感じたか訊いてみたい気がする。

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