
"北の国ではもう秋だ あかのまんまの つゆくさの 鴉揚羽の八月は 秋は夏のをはりです ゆくへも知らぬ人のかず かつて砂上にありし影 それらもやがて日が暮れて 鴉のやうに飛びさった ・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・ ” (三好達治 「北の国では」より)
あかのまんまとは、イヌタデのことである。[ タデ科の一年草。山野や路傍に自生する。初秋、小粒の穂状の紫紅色の花を咲かせる。この粒状の花をしごき取り、赤飯にみたてて、ままごとに使って遊んだことから、「赤の飯(まんま)」とよばれる。]
今回は詩についてではなく、自分が小学生の頃、アゲハチョウを卵から育てた時の話である。 学習研究社の小学生向けの雑誌に、付録としてプラスチック製の飼育器が付いていた。(何年生の時だったかよく憶えていない。) アゲハチョウはミカン科の木の葉に卵を産み付け、幼虫はその葉を食べて育つ。 その頃私はミカン農家の多い所に住んでいて、親は公務員だったがなぜかミカン山があり、ミカン以外にも色々な柑橘類の木が植えてあったので、アゲハチョウの卵を見つけることはそう難しくなかった。 卵が産み付けられた枝を取って来て飼育器に入れ、幼虫が孵るとこまめに枝の交換や中の掃除を行ない、かなり熱心に世話をした。子供としては単純に成虫になるのが楽しみだったからだと思う。 正直に言って、幼虫の頃はやや気持ちが悪かった。枝の交換の時に手に這い登ってきたことがあって、思わず振り払ってしまった。 このような酷い扱いをされながらも、幼虫はすくすくと成長して蛹になり、羽化を待つばかりとなった。 しかしある日、私が学校から帰ると、蛹がいなくなっていた。母と祖母の話によれば、私が学校に行っている間に羽化して翅が伸びきってしまい、狭い容器の中ではばたかせておくのはかわいそうだという理由で、放してしまったということだった。 母と祖母の判断は正しかったと思うが、私は自分が育てた蝶が成虫になって飛び立つところを見ることができなかった。キアゲハだと思っていたが、立派なカラスアゲハだったそうである。 アゲハチョウの成虫の寿命はどのくらいなのか調べてみたが、個体差や生活環境が大きく影響するのでよくわからなかった。2〜3週間という記述もあった。あのカラスアゲハは生き延びて子孫を残すことができただろうか。
三好達治は詩の中でカラスアゲハのことを”喪服の蝶”と呼んでいて、あまり良いイメージを持っていなかったという印象があるが、もし昔育てたカラスアゲハの遠い子孫が今どこかではばたいているとしたら、それは個人的には嬉しいことだと思う。
カラスアゲハの幼虫が蝶になるまで https://www.youtube.com/watch?v=yIm3hM4mim8
追記:懲りずにクスノキなどの葉に卵を産み付けるアオスジアゲハを狙ったが、こちらは卵がみつからなかった; |
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