
風のように
遠い場所が恋しくなる日
澄み渡る空の下の 静かな平原や
深い渓谷を思い浮かべると
古い時代のままの
写真でしか知らないその場所への
不思議な懐かしさが胸に湧き起こる
けっして思い出すことはできない
けれど 生まれるよりも前に知っていた
別の世界の風景に
そこは似ているのかもしれない
憧れの土地に立つことを思うたび
いつか
風のように しなやかで
自由でいられた所へ
心が帰っていくような気がする
すべてのいのちがそこから来る
遠い昔に住んだ はるかな世界
そこではきっと
まだ 形をもたない魂たちが
調律された
楽器の音色のように ゆるぎない
穏やかさにつつまれて 安らいでいた
時おり 深い眠りの向こうから
誘いかけてくるその場所に
いつかまた たどりつくことを
確かな約束のように
ひとつの救いのように 信じてみる
ささいなことを思い悩んで
ためいきばかりもらす そんな日には
(月刊『詩とメルヘン』19××年×月号入選)
『詩とメルヘン』(サンリオ)は詩、イラスト、メルヘンを一般公募して掲載するオーディション形式の雑誌でした。故・やなせたかし先生が編集をされていました。廃刊になりましたが、事実上の復刻版である『詩とファンタジー』(かまくら春秋社)が年2回出版されています。
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